スウの独り言

趣味のことをとりとめなく書きとめるブログ

誰かを想って書かれたクラシック音楽

こんにちは、スウです。

今週のお題「大切な人へ」にちなんで、作曲家が大切な人を想って書いた楽曲をご紹介します。

 

 

 

🎼Salut d'amour ”愛の挨拶”

 ~高貴で淑女な年上妻へ~


五嶋みどり 「愛の挨拶 op.12」(エルガー)

とても有名な曲なので知っている方も多いと思いますが、やはりこれは外せません。

イギリスの作曲家、エドワード・エルガーが作曲したピアノとヴァイオリンのための小曲「愛の挨拶」です。贈った相手はピアノの弟子でもあった自身の妻。婚約記念の日に贈ったというロマンチックな一曲となっています。

ピアノのクリアな音色に、温かみのあるヴァイオリンの音色の組み合わせは人の感情を表すのにとっても適しているなあと納得の一曲です。エルガーは元々ヴァイオリニストですから、奥さんのピアノと一緒に演奏したことでしょう。何と素敵な日常!

実は、この時エルガーはまだまだ無名の作曲家で、一方奥さんの方は陸軍少将の娘。加えてお互いの家の宗教の違いに奥さんの方が年上と、当時はまだ中々理解されにくい恋愛だったようで、奥さんの方の家族からは反対されていたようです。

反対を押し切って二人は結婚するのですが、奥さんの献身的なサポートもあって30代後半から作曲家としての名声を得るようになりました。現在は夫婦隣同士のお墓に眠っています。破天荒な恋愛歴が多く目立つ音楽家の中でかなりの愛妻家ですね。

 

 

🎼Kinderszenen子供の情景

 ~いつまでも子供らしい愛嬌のある年下妻へ~


Schumann - Escenes d’infants, op. 15 | Martha Argerich

ドイツの作曲家、ロベルト・シューマンもまた愛妻家として有名です。彼の妻は当時の天才女性ピアニスト、クララ・ヴィーク。この曲は彼女と出会ってから結婚するまでの思い出を楽曲にしたとも言われ、「クララへの思いが喜びや希望や苦痛や悲嘆の形で込められていないものは1小節もなかった」とのちに語った時期に書かれた曲です。

一番有名なのは7曲目の<トロイメライ>(6:07)でしょう。奏者のアルペジオの弾き方次第で曲の印象が万華鏡のように変わる不思議な曲で、私も大好きです。

個人的押し曲は1曲目の<見知らぬ国と人々について(異国から)>。手巻きオルゴールを回して「さあ物語の始まりですよ」という印象の主題が愛らしく聴こえてきてとっても好き。

ちなみに、あの有名なピアニストのフランツ・リストは「この曲のおかげで生涯最大の喜びを味わうことができた」とシューマンへお礼のお手紙を書いたそうです。なんでも、この曲の虜になった娘たちのためによく弾いていたとか。その光景を想像するととっても微笑ましいですね。

 

🎼Le Tombeau de Couperinクープランの墓”

 ~国のために戦い散った勇敢な友人へ~


Ravel - Le Tombeau de Couperin, orchestration complète

フランスの作曲家、モーリス・ラヴェルによる楽曲。元々はピアノソロ曲でしたが、管弦楽編曲版も書いています。”管弦楽の魔術師”の名の通り、私は管弦楽版の方が好みです。上の動画はラヴェル自身が編曲していない2曲(フーガとトッカータ)までオーケストラ版になっているコチシュ・ゾルターン氏の録音ですね。

さて、こちらが作曲されたのは第一次世界大戦の前後。ラヴェルはトラック輸送兵として参戦しており、そのときに一生癒えない傷を負い、また友人も多く失いました。さらに同時期母親も亡くしています。そんな悲しい状況の中、第一次世界大戦で亡くなった友人に捧げるために書かれたのです。

この透き通るような前奏曲<プレリュード>は美しさでいっぱいです。打楽器を含まない編成の効果か、音の厚みや圧はあまり感じず、手のひらから零れ落ちるような音の粒というか、冷水のようなきらきら、さらさらとした雰囲気が色彩的で大好き。2:35からの春風のような音の広がりは、これぞラヴェル!という魅力がつまっていると思います。

ラヴェルは悲しみを美しさに昇華できるタイプなんでしょうか。第一次世界大戦を経験した(しかも前衛の方まで行っていたとか)そのあとにこんなに美しい曲を書くことができるなんて凄すぎです。

 

🎼Symphonie fantastique ”幻想交響曲

 ~舞台の上で輝くあの娘に片想い~


ベルリオーズ - 幻想交響曲 Op.14 カラヤン ベルリンフィル 1964

フランスの作曲家、エクトル・ベルリオーズが書いた作品です。原題は「ある芸術家の生涯の出来事、5部の幻想的交響曲」としており、ある芸術家と言うのがベルリオーズ自身のことを指しています。

医学生から音楽の道に転じた無名の作曲家ベルリオーズが、オフィーリアを演じた女優ハリエットに恋をする。しかしハリエットは全く眼中になく、二人は離れ離れになってしまう―とそんな感じの失恋体験をもとに書かれております。これを言ってはお終いですが、ハリエット側から見ればストーカーでは…。

病的な感受性と激しい想像力に富んだ若い音楽家が、恋の悩みによる絶望の発作からアヘンによる服毒自殺を図る。麻酔薬の量は、死に至らしめるには足りず、彼は重苦しい眠りの中で一連の奇怪な幻想を見、その中で感覚、感情、記憶が、彼の病んだ脳の中に観念となって、そして音楽的な映像となって現われる。愛する人その人が、一つの旋律となって、そしてあたかも固定観念のように現われ、そこかしこに見出され、聞えてくる。(作者自身がプログラムに載せた解説。抜粋)

愛する人の旋律(イデー・フィクス)は各楽章に登場するので、この旋律を探しながら聴くのがおススメです。参考までに、1楽章にはじめて出てくるイデー・フィクスは6:03から。フルートとヴァイオリンによって奏でられます。伸びやかな旋律と中低弦楽器のザクザクとした刻み音のかけ合わせがユニークで面白いですね。一説ではベルリオーズの鼓動を表しているのだとか。

1楽章は標題音楽としては少し分かりにくいかなあと思うのですが、2楽章以降はよく情景が浮かんできます。個人的押しポイントは下記の通り。

2楽章:冒頭からワルツの始まりにかけての部分。弦楽器のトレモロがおさまってすぐハープの下降音型は、舞踏会会場の扉を開けた時の華やかさや豪華さに感動しているかのようです。そのあとすぐにワルツの3拍子が聴こえてくるのもとっても好き。主人公がまず会場の華やかさに感動して、中で踊られているダンスを見て、そのあと愛しのあの人を見つける…そんな視点の移り変わりも良く分かります。

4楽章:3楽章までとは全く色合いも力の入れ具合も(?)違うような気がします。絞首台の上で切なく響くイデー・フィクスとそのあとのギロチンの描写は本当に凄い。コントラバスのピッチカートが何を表しているかなんて、言われなくてもすぐに分かります。当時ギロチン最盛期だったからこその生々しい描写。

5楽章:木管楽器ポルタメントと空気を読まず鳴り響く鐘がとても好き。狂った宴の雰囲気が伝わってきます。

最後に、こんな怒涛の展開の曲を聴いていたハリエットが、しかもモチーフが自分だと分かっていてベルリオーズと結婚しちゃうという、その結末に驚きです。普通の感覚ならなにこれ怖い、ってなりそうなものですが…。

 

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全4曲紹介しましたが、いかがでしたか?今日紹介した楽曲も、どれも有名な曲なのでぜひ聴いてみてくださいね!